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 すべての着衣を外しても、ヴィンセントは抵抗しなかった。
 苦痛の表情を見せることもなく、されるがまま身を横たえていた。
 クラウドは彼にあます処なく触れ、唇を当てた。
 作られたように均整が取れた肢体、あくまで滑らかな肌。吸い上げればほのかに甘い。
 クラウドは満たされていた。これまでに感じたことのない至福だった。今日まで何もせずにいられたことが不思議に思えた。
 指の一本一本を口に入れ、乳首を吸い、腰骨や膝をさする。
「あ…… んっ…… ふ……」
 ヴィンセントが悩ましげな声を上げる。
 自分が与えた刺激に反応し、悦んでいると思うと嬉しかった。
 足を広げ、奥まった秘所に指を当てる。
 ヴィンセント自身を口で愛撫しながらその蕾をほぐし始めると、切なげな嬌声は一段と激しくなった。
 耳に響くそれに、クラウドも高まっていく。
「あ、ん、はあっ、あああッ!!」
 痛みのない頃合いと見て、クラウドはゆっくりと自分を入れた。
「あ……」
 歓喜に思わず天を仰いだ。
 ヴィンセントと結ばれた。ひとつになれた。それはクラウドにとって何にも勝る無上の喜びだった。
 もっと彼が欲しい。もっと深くまで触れたい。もっともっと愛したい。
 その思いへつき進むように、クラウドはヴィンセントを見下ろしながら一心に腰を動かした。
「あう、あ、あ、はううっ……!」
 高貴な宝石にも見立てたヴィンセントの顔に汗が浮かび、かつてないほど乱れている。
 それもまた、たとえようもなく美しく思えた。
 そんな中
「−−−」
 クラウドはふと動きを止めた。
 ヴィンセントからそれまでと違う、そして何か引っかかる言葉が聞こえたのである。
 耳を澄まし、彼の顔を見据え、探るように動いてみた。
 すると
「シ……ド……」
「……!」
 瞬間、冷水を浴びせられた気がした。
「シド、あ、シド、シドっ……!」
「……」
 血の気が引いていくのが自分でわかる。
 それでいて心臓は高く激しく鳴っていた。
「シド、ああ……。帰ってきて……くれたのだな……」
 ヴィンセントの言葉は続く。
「こうしてまた……あんたに抱かれて……嬉し……い……」
「……やめてくれっ!!」
 クラウドは声を限りに叫んだ。
「やめろよ!! あんたを抱いているのは俺だ、クラウドだよ!」
「シド、ああ、シド……」
「今あんたを愛しているのは俺なんだ! 今だけは、今だけでいい、俺の名前を呼んでくれ、ヴィンセントっ!!」
 クラウドは必死の願いを込め、ヴィンセントに向かい続けた。
 しかし
「シド、いい……っ! もっと……もっと来てくれ! もっとあんたが欲しい……っ」
 ヴィンセントはなおいっそう『シドとの愛』に浸っていく。
「やめろ、言うな、聞きたくない!!」
 クラウドはヴィンセントの言葉を止めようと夢中で手を動かした。
 頬を叩き、唇を押さえ、顔を覆った。
 その一方でヴィンセントの体を遮二無二貪り、彼を抱く愉悦をとことんまで追い求めた。
「……っ」
 やがて気がついた時、クラウドはヴィンセントの首を締め上げながらその体に解き放っていた。


 とこしえとも思える長いしじまが流れている。
 クラウドはベッドに腰かけ、ぼんやりそれを眺めた。
 彼の後ろにはヴィンセントが横たわる。
 白い裸体はぴくりとも動かない。
 全身がだらりと弛緩し、うち捨てられた人形のようだった。
 クラウドには後悔も悲しみも起きてこなかった。
 彼自身不思議だったが、ひたすら虚しく、何故こんなことになったのかという思いのほうが強かったのである。
 泣けない辛さの中、彼は「ヴィンセントもやっぱり死ぬんだな」と埒もなく考えていた。

 空が白み始めた頃、ようやくクラウドはリーブに電話をかけた。
 かなり長い無言があった末、リーブはすぐそちらに行きます、とだけ言った。

 ハイウインドを模して作られた小型の飛空艇が北に向かって飛んでいる。
 乗っているのはクラウドとヴィンセント、それからリーブと彼の腹心の部下数名だった。
 リーブは言葉通りすぐにやってきた。そしてまだ夜が明け切らぬうちにヴィンセントを連れ出し、村から少し離れた処へ停めていたこの飛空艇に乗せ込んだのである。
「悪いな。迷惑をかけて」
 窓から空を眺めながら力なくクラウドは言う。
「まあ、私としても星を救った英雄を犯罪者にするわけにはいきませんから」
 まして殺したのがその仲間となれば。見るまでもなく、リーブの苦い顔がありありとわかった。

 地上の白い部分が次第に増え、アイシクルエリアにかかったと知る。
 やがて見えてくる大氷河を過ぎれば、この機が目的地とする大空洞はすぐだった。
「案外……シドさんもあそこなのかも知れませんね」
 リーブの言葉にクラウドは思わずふり返る。
「それやったら、どんなに探しても見つからなかった理由も納得できます。私らはからずもヴィンセントさんをシドさんの処へお送りするわけですな」
 リーブはそう言って苦く笑う。
「……」
 クラウドには笑うべきか泣くべきなのかもわからなかった。
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