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 大空洞の上空はかなりの強風が吹きすさんでいた。
 乗組員たちが慎重にハッチを開けると、激しい音とともに艇内にも風が吹き込んだ。
「よろしいですか、クラウドさん」
「ああ」
 その声を合図に立ち上がり、クラウドはリーブの部下たちとともにヴィンセントを入口に運んだ。
 足から外へ出していく。この場に至ってはやはり後悔と名残惜しさが激しくつのり、動作は緩慢になった。
「あの、この風ではあまり長くは留まれません、から……」
 手伝う一人が遠慮がちに言う。
「わかってるよ」
 返す言葉がつい尖った。

 ヴィンセントの体は完全に艇外へと出された。
 あとは腋を抱える手を放すだけである。
「クラウドさん」
「クラウドさん、早くしないと風にあおられます」
「……」
 口々に急かされ、クラウドは覚悟を決めてヴィンセントを支える手の力を徐々に抜いていった。
 その時である。ヴィンセントの目がふわりと開いた。
「……!」
 そして、彼は言った。
「ありがとう、クラウド……」
 その刹那、ヴィンセントの体はクラウドの手をこぼれ落ちた。
「ヴィ…… ヴィンセントっ!!」
 クラウドは掴もうと夢中で身を乗り出した。
「危ない!」
「やめて下さい、死ぬ気ですか!?」
 それを乗組員達が総出で押さえた。
「放せ、ヴィンセントが、ヴィンセントがっ!!」
 言い尽くせない言葉が風にかき消される。
「−−−ヴィンセントーッ!!」
 届かない手を必死に延ばしてクラウドは叫ぶ。
 ヴィンセントは羽のようにゆっくりゆっくりと舞い落ち−−−やがて消えていった。

END
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