不確かな状態が続く中、ふいに二人の住まいをティファが訪れた。 「野菜と肉がいっぱい手に入ったからポトフを作ったんだけど……やっぱり一人じゃ多すぎちゃって……。無理にとは言わないけど……もしよかったら食べてもらえないかなと思って……」 「あ……うん。喜んでもらうよ。わざわざ持ってきてくれて……その……悪いな」 別れてからこのかた、彼女とは電話でも話していないのでどうしてもぎごちなさが漂う。そんな二人にまるで無頓着な様子で、ヴィンセントが言った。 「久しぶりだな、ティファ」 「ええ。元気? ヴィンセント」 「この通りだ」 「そう、よかったわ」 ティファが笑顔を見せるとつられたようにヴィンセントも微笑んだ。 「もうすぐ戻るから、シドにも会っていくといい。君に迎えられればさぞ喜ぶだろう」 その言葉にティファは顔色を変える。 問いかける眼差しをクラウドに向け、クラウドはまっすぐに見返してから頷いた。 「……聞いてはいたけど……驚いたわ」 「うん……」 持ってきたもので食事をし、少し話したあと所用を理由にティファはいとまを告げた。クラウドが送りに出る。 「ずっと……あんな調子なの」 「だいたいは」 「そう……」 ティファは沈痛な面もちで俯いた。 「大変ね」 「ああ。見ていてたまらないよ」 「私は、あなたのことが心配だわ」 「え?」 「わかるもの、私」 あ、とクラウドは気づく。ミディールにいた間、ティファはちょうど今の自分だったのだ。 改めて、そしてよりいっそう彼女の愛情の深さを知る。 「ごめん……」 「あ、ううん、そうじゃなくて。−−−あの、これは言おうかどうしようか迷っていたんだけど」 「?」 「私でよければ何でも相談して。たいしたことは出来ないけど、でもせめて聞いてはあげられると……思うから」 「……」 クラウドは胸が詰まった。 「ごめん……」 彼女の手を取り、祈るようにこうべを垂れる。 「ごめんよ、ティファ……」 他には何も言えなかった。 気を鎮めてから部屋に戻ってみると、ヴィンセントはすでに窓際に椅子を寄せていた。 名工の手によって彫られたかのごとく、完璧なまでに整った横顔。 今はそれがむしろ腹立たしくさえ感じられる。 「ティファは帰ったのか?」 その横顔のまま、ヴィンセントが尋ね、クラウドは「ああ」とだけ返した。 「そうか。シドの帰りが間に合えばよかったのだが」 いつものことであるのに、舌打ちしたい気分にかられる。 ヴィンセントは察する気配もなく、訥々と続けた。 「シドは好奇心が強いので……何かを見つけるとどうもあとさき考えずに舞い降りてしまうらしい。変わった形の建物や、大きな滝や、美しい色の湖などに……」 「……」 「その結果途中で燃料が足りなくなり、補給出来るところを探して放浪したこともあったそうだ」 「ふうん」 クラウドは肩をすくめる。 「いつかなどは広大な花畑を見つけたと自慢していた。そしてあろうことか、そこの花で作った花束を私への土産に持ち帰ってきたのだ」 「ああそう」 クラウドは露骨にうんざりして見せた。ヴィンセントへの思いと矛盾しているのはわかっていて、怒鳴りつけてやめさせたくなる。 「男に花束とは趣味が悪いなと言ったら……相手がおまえなら抜群のセンスなんだと……笑っていた……」 「……」 「今度はいったい何を……見つけたのだろうか……」 クラウドはたまりかねて叫んだ。 「ヴィンセント!! シドは、シドはもう……!」 彼の両肩を掴み、思い切り揺さぶり、芯までわからせようとした時 「どうしてこんなに……逢えないのだろう……」 ヴィンセントの見開かれた赤い瞳から、透き通った涙がはらはらとこぼれ落ちていた。 クラウドはしばし言葉もなく見つめる。 乱れなく整った美しい横顔のまま、瞳は空を見つめたまま、まるでヴィンセント自身が気づいていないように、涙の雫は生まれてはこぼれ生まれては流れ、とめどなく頬を伝い落ちた。 「どうしてシドは……戻ってこないのか……」 「−−−ヴィンセント……っ!!」 思わず彼の頭を抱え、自分の胸に押し当てた。 「頼む、もう…… もう……」 黒髪に顔を埋め、頬ずりしながら 「言わないでくれ……!」 クラウドは先程までとはまったく別の心で懇願した。 「頼むから……お願いだから……」 こんな近くにいるのに、何ほどの救いにもなれない。 そんな自分に対する悲憤もあった。 悔しさと哀しさ、そして愛しさ。 クラウドはすべての思いを込め、彼を抱きしめ続けた。 |
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