「------サガ……」
 アイオロスはまぶしげに顔をしかめる。熟睡のなごりをとどめていた。
「どうしたんだ、こんな時間に」
 招き入れながら当然の問いを口にする。その語調に怒気はなかった。
「頼みがある」
 アイオロスより先に奥へと入り、ふり向きざまにサガは言った。
「抱いて……欲しい」
「え……」
「わたしを抱いてくれ……アイオロス」
 サガはまっすぐにアイオロスを見つめた。言葉の端で瞳が震える。
「今宵ひと夜……ひと夜だけでいい。何もかも忘れ、気狂うまでに君と……!」
「サガ……!」
 アイオロスは驚き、少なからず動じた。
「何があったというんだ、サガ」
 サガは首を振る。
「何も……」
 アイオロスは納得しない。だがサガはそれ以上口にしようとしなかった。
「まあ……少し落ち着け」
 小さな吐息のあと、アイオロスは言った。
「ワインでもやらないか? 飲みながら話を……」
「いらぬ!!」
 サガははねつけた。
「何もいらない! 欲しいのは君だけだ!!」
「……サガ」
「一分でも、一秒でも長く……君に触れていたい。わたしに……触れていて欲しい……!」
 サガはアイオロスに抱きついた。回した手に力をこめ、アイオロスへ食い込もうとでもするかに締めつける。
「好きだ……アイオロス」
 アイオロスは戸惑った。なす術もわからず、ただサガを支えていた。
 だがやがて彼はサガの力を解いた。そして
「わかった……」
 その顔を両手に包み、唇を重ねた。

 奥の間はアイオロスの匂いに満ちていた。
 彼にすがったまま、サガは寝台へと倒れる。瞬間、衝撃を和らげようとするアイオロスの力を感じた。
 たくましい長身が合わせられる。体の隅々までアイオロスの重さを受け止めた。サガは嬉しいと思った。叫びだしたいほどだった。
 アイオロスの唇が頬から首に、そして胸へと這っていく。
 無敵の拳が今は優しくサガの肌を撫でさする。
 サガは体中でアイオロスを待った。全身がアイオロスを望んだ。
 唇を、舌を、指を。髪の毛の一本でもよかった。自分に向かうアイオロスであるならば。
 サガはわずかな感触もこぼすまいとすべての神経をアイオロスに向けて研ぎ澄ました。
「あ……っ」
 サガは声を上げた。耳にしてアイオロスが顔をふり向ける。
「めずらしいな……」
「な……に?」
「いつもは……押さえ込んでしまうのに……」
 サガは微笑した。
「今日だけは……」
 今日からは、と言いたかった。
 重なる股間でアイオロスの性が熱く脈打ち始めた。察してサガは体をずらす。
「そのまま……来てくれ」
 枕許の油脂に手を伸ばしたアイオロスに言う。
「しかし」
「かまわぬ」
 サガは促す。躊躇しながらもアイオロスはサガの脚を分け、中心に己を差し込んだ。
「ああっ!!」
 途端に鋭い悲鳴が上がる。
「だから……!」
 咎めるように言って、アイオロスは腰を退きかける。サガは手をかけ、それを止めた。
「気に……するな」
「痛いんだろう!? だったら……」
「いい……!!」
 サガは断固として言った。その強さに押され、アイオロスは再び腰を進めた。
「あ、あうっ!! あ……っ」
 切れ切れの声とともにサガの上体がびくびくとのたうつ。
 無理矢理押し開いているのがアイオロスにもわかった。
「もっと……」
 加減し、中ほどで止める彼にサガは言う。
「もっと奥へ…… 奥までいっぱいに……君で埋めてくれ……」
「馬鹿! 裂けてしまうぞ」
 滑りをよくして行なった時さえ、サガがそこまで迎え入れたことはなかった。
「いいんだ」
 しかしサガは首を振る。
「裂いてくれていい。奥の奥まで……君を感じたい……」
 言い終えるや、自分から腰を突き上げた。
「うっ!」
 アイオロスの方が声を上げた。強く挑まれ、彼の惑いは消えた。
「ああっ!!」
 アイオロスの腰が速く、激しく動き始めた。小刻みに前後へ往復しながら、少しずつサガの内部を貫いていく。
 揺さぶりにサガの体が弾み続ける。寝台がぎしぎしと軋んだ。
 押し破られる痛みに気が遠のく。だがサガは自分を引き据え、それと正対した。
 痛みはアイオロスがくれたもの。アイオロスが自分の中に在る証。だからまぎらしたくない。癒したくはない。サガにとってそれは『苦痛』ではなかった。
 アイオロスが昇り詰め始めた。間隔を狭めた動きでも容易に察せられる。
「嫌だ……っ」
 サガはアイオロスの背にぎりっと爪を立てた。
「! ……サガ……!」
「まだだ……! まだいかないでくれ!」
 言いながら腰を浮かせ、さらに奥へアイオロスをくわえ込む。そしてきつく締めつけた。
「もっと深く……もっと強くわたしに食い込め……! 少しでも長く……わたしに居てくれ……!」
 髪を乱し、腰を振る。汗が珠と散り、わずかな灯りに煌めく。
「放したくない……ずっと感じていたい……------アイオロス!!」
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